somewhere sometime
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「お帰りをお待ちしておりました。社長。」
「…諸葛亮、話は聞いた。
曹操殿がお呼びらしいな。」
「…は。」
「…ではすぐに行こう。
迎えが来られているのであろう?」
その言葉が終らないうちに、社長室のドアが開く。
「戻ったか劉備。
孟徳の催促がうるさい。
悪いが急いでくれ。」
体格の良い隻眼の男が現れる。
劉備や諸葛亮にとっても顔見知りであり。
いつも「迎え」に来る男だった。
「承知しました。夏候惇殿。」
威圧感のある相手の眼差しに気圧されることもなく、
劉備は曹操の側近、夏候惇とともに部屋を出る。
閉められた扉を眺めながら、孔明はかすかにこぶしを握りしめていた。
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豪奢な車の中で、夏候惇は後部座席の劉備にふと話しかける。
「…もうこれで何度目になるかな…お前の迎えは。」
「さあ。私は過ぎたことは忘れる事が多いもので…。」
「……そうか。」
「ええ。」
ハンドルを指で少しつき、夏候惇はまた口を開いた。
「わしは覚えているぞ。
最初に孟徳のいいつけでお前を迎えるよう言ったのは…。」
「…。」
「そうだな…あの「いくさ」の後だった…。」
「………っ…。」
車はそれからしばらくして、巨大なビルの下に止まった。
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「帰ったぞ。公績。」
「ああおかえり…父さん。」
夕暮れ時、凌統はぼんやりとした頭で、
それでも日頃の習慣のせいか父との二人分の食事を作っていた。
母は凌統が中学の時に事故で死んだ。
それ以来、凌統は父と二人で暮らしてきた。
家事は分担で行い、食事や掃除は凌統、洗濯は父の凌操の仕事だった。
家政婦を雇う余裕が凌家になかったわけではない。
急成長する呉グループの重役の一人である凌操の収入は、10人の家政婦を派遣しても
揺るぐようなものではなかった。
だが、「自分でできることはやれ」というのが凌操曰く凌家の心得であり。
二人暮らしには広い家で父子二人、どちらかというと質素に生活をしてきた。
そんな父が、凌統はけして嫌いではなかった。
むしろ十分に尊敬している。だからこそ父と同じ職場に就職を決めていた。
「今日の飯はなんだ?」
「中華料理にしてみたよ。麻婆豆腐とスープ、それから作り置きだけど小篭包。
父さん好きでしょ?」
「おお、旨そうだな。」
息子の料理に嬉しそうな顔を見せる。
父が食卓につくと、凌統は茶碗を手渡しながら。
どうしても確かめたいことを聞いた。
「なあ父さん。」
「ん?どうした?」
「今日聞いたんだけど…姫、見合い決まったんだって?」
姫の興奮した声。多分相手があの男なのは間違いないだろう。
それでも確かめたかった。
自分の気持ちに戸惑いながらの質問だったが、父は別の意味でとっていたらしい。
「ほお…公績、お前お嬢様を…。」
「え?あ。」
「そうかそうか…よく考えればお前とお嬢様は仲もよかったしな。
考えてみれば年も近いし…うんうん、そういうことも考えられたろうに。」
勘違いを重ねる父に、凌統は若干焦りながらも。
ここで焦ってはさらに勘違いの元だと意外に冷静な判断を下した。
「違いますって。
姫は友達。考えたこともないっつーの。」
「そうか?…それならまあその方が良いだろうが…。」
父は腑に落ちなさそうな顔をしつつも、納得はしたようだ。
納得をした方…つまり凌統が尚香を女性として見ていない、という方がいいと思ったからだ。
父は今そう言った。
「…じゃあ…。」
「ああ。相手は最近新進の企業グループだが…なかなか人材もよく、見どころのあるところのトップを勤めている男だ。
だが…年が、な。
お嬢様とだいぶ離れているのが問題で、
お嬢様もしぶっていらっしゃったようだが…。」
「……。」
「それが今日相手の写真を見たとたん、快諾したらしい。
はは、一目惚れだったようだな。」
凌統はそっか、となんとか笑って言った。
姫もえらくゲンキンだねえ、と口先でなんとかごまかしながら。
確かに衝撃を受けていた。
あの人が、結婚する。
とうに結婚してたかもしれないのに、男なのに、会ったばかりなのに、どうしてこんなに衝撃を受けているのか。
二度目の同じ衝撃に、凌統は認めざるを得なくなっていた。
あの人に恋をしていた。
To be Continued…
おめでとうございまーす。新年最初、三国志からアップとなりました。
なんか意外と楽しかったです!!凌親子の会話。
仲のいい父子が基本ですね!!
というか凌統の料理…すみません呉のあたりの食事ってわかんなくて。
麻婆豆腐は四川(当時の蜀あたり)料理なのに。
現代メンバーはどちらかというと現中国より現日本に住んでるっぽいです。
リアル中国はいろいろ大変そうだから住ませるのちょっとパス。
そして魏の人も出てきました…。
なんかまた話が広がりそうです。性格か?;;;
こんな奴ですが今年もどうぞよろしく!!
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